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ステンレス鋼の種類と特性|オーステナイト系・フェライト系・マルテンサイト系の違い
ステンレス鋼の3系統の違いを、耐食性・磁性・硬さ・溶接性と主な用途から比較します。用途に合った鋼種選びのポイントもわかります。
公開 ・ 材料・加工材料
ステンレス鋼は、鉄を主成分にクロムを10.5%以上含み、表面にできるごく薄い不動態皮膜によって錆びにくくなった合金鋼です。代表的な種類はオーステナイト系・フェライト系・マルテンサイト系の3系統で、耐食性、磁性、強度・硬さ、溶接性がそれぞれ異なります。本記事では、各系統の特性と用途の違い、選び方のポイント、加工時の注意点までを順に解説します。
ステンレス鋼の基礎 ─ 定義と錆びにくさの仕組み
ステンレス鋼とは、鉄を主成分とし、クロムを10.5%以上含む合金鋼のことです。英語の「stainless(錆びない・汚れない)」が名前の由来で、JIS規格の材料記号から「SUS(サス)」とも呼ばれます。記号の意味や規格の基本は「SUS材料の基礎知識」でも解説しています。
クロムがつくる不動態皮膜
ステンレス鋼が錆びにくいのは、鋼に含まれるクロムが空気中の酸素と結びつき、表面にごく薄い酸化皮膜をつくるためです。この皮膜は「不動態皮膜」と呼ばれ、内部の金属を腐食から守ります。傷がついても周囲に酸素があれば再び形成されるため、普通の鋼に比べて腐食が進みにくくなります。
ただし、ステンレス鋼は「錆びにくい」材料であって、「絶対に錆びない」わけではありません。塩分や酸の多い環境や、表面に汚れや異物が付いたままの状態では、ステンレス鋼でも錆が発生することがあります。
成分と組織による分類
ステンレス鋼は、成分と金属組織(結晶の並び方)の違いによって分類されます。代表的なのが、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系の3系統です。
- オーステナイト系:鉄-クロム-ニッケル系の合金。ステンレス鋼の中で最も一般的
- フェライト系:ニッケルを含まないか、ごく少量しか含まない鉄-クロム系の合金
- マルテンサイト系:鉄-クロム系の合金に炭素を加えたもの。焼入れで硬くなる
このほか、オーステナイトとフェライトの2つの組織をあわせもつ二相系や、熱処理によって強度を高める析出硬化系もあります。本記事では、使用される場面の多い上記の3系統を中心に解説します。
3系統の違いを比較表で確認
まずは、3系統の主な違いを表で整理します。耐食性や強度は同じ系統の中でも鋼種によって差があるため、あくまで系統ごとの傾向として参考にしてください。
| 項目 | オーステナイト系 | フェライト系 | マルテンサイト系 |
|---|---|---|---|
| 主な成分 | 鉄・クロム・ニッケル | 鉄・クロム | 鉄・クロム・炭素 |
| 磁性 | 基本的になし | あり | あり |
| 耐食性 | 非常に優れる | 適度 | やや劣る |
| 焼入れによる硬化 | しない | しない | する(高い強度・硬度) |
| 代表鋼種 | SUS304、SUS316 | SUS430 | SUS410、SUS420J2 |
| 主な用途 | 厨房機器、食品加工機械、化学装置、建材 | 家電製品、自動車部品、熱交換器 | 刃物、工具、医療用メス、締結具 |
オーステナイト系ステンレス鋼の特性と用途
特徴 ─ 耐食性・成形性・溶接性に優れる
オーステナイト系は、クロムとニッケルを多く含む、ステンレス鋼の中で最も一般的な系統です。ニッケルの働きによって常温でもオーステナイトと呼ばれる組織が安定しており、非常に優れた耐食性と成形性を示します。低温から高温まで、幅広い温度範囲で性質が安定している点も特長です。
磁性は基本的にありません。ただし、曲げや絞りなどの冷間加工を受けた部分は、わずかに磁性を帯びることがあります。
代表鋼種 SUS304とSUS316
代表的な鋼種がSUS304とSUS316です。SUS304はクロム約18%、ニッケル約8%を含むことから「18-8ステンレス」とも呼ばれ、最も広く使われているステンレス鋼です。SUS316はモリブデンを加えることで、塩化物を含む環境での孔食(点状に深く進む腐食)に対する耐性を高めた鋼種です。SUS304の詳しい特性は「SUS304 ステンレス鋼」をご覧ください。
主な用途
優れた耐食性をもつことから、厨房機器、食品加工機械、化学装置など、多岐にわたる分野で使われています。成形性に優れ、溶接もしやすいため、ビルの外装や橋梁の構造材など、建築・インフラ分野でも広く採用されています。長期間にわたって手入れの手間を減らしたい場所に適した材料です。
また、清潔に保ちやすく錆びにくいことから、医療用具や家庭用品にも多く使われます。医療分野でのステンレス鋼の使われ方は「SUS深穴加工と医療応用」で紹介しています。
フェライト系ステンレス鋼の特徴と応用分野
特徴 ─ 比較的低コストで磁性をもつ
フェライト系は、ニッケルを含まないか、ごく少量しか含まない鉄-クロム系の合金です。高価なニッケルが少ないため価格が比較的安定しており、適度な耐食性を備えています。代表的な鋼種はSUS430です。
磁性をもつことも大きな特徴で、磁石につきます。また、塩化物を含む環境で起こる応力腐食割れ(引張りの力と腐食が重なって生じる割れ)を起こしにくいという長所があり、この点ではオーステナイト系よりも有利です。
主な用途
比較的低コストで適度な耐食性をもつため、家電製品や自動車部品に多く使われています。磁性を活かし、磁気的な性質が求められる電気機器の部品などにも適しています。
また、熱に強い性質を活かして、オーブンや熱交換器などの素材としても利用されています。
マルテンサイト系ステンレス鋼の利点と注意点
特徴 ─ 焼入れで高い強度と硬度が得られる
マルテンサイト系は、鉄-クロム系の合金に炭素を加えたもので、焼入れ(高温に加熱してから急冷する熱処理)によって高い強度と硬度が得られます。代表的な鋼種はSUS410やSUS420J2です。
硬さを活かして、刃物や工具の素材として広く利用されています。包丁やはさみ、医療用のメスなど、鋭い刃が求められる製品に適しています。
使用上の注意点
耐食性はオーステナイト系やフェライト系に比べると劣るため、使用環境に注意が必要です。特に酸や塩分が多い環境では腐食が進みやすいため、適切なメンテナンスが欠かせません。
また、熱処理によって特性が大きく変わるため、製造過程では温度や時間の厳密な管理が求められます。溶接性も劣り、溶接部が硬化して割れやすいことから、溶接が必要な構造にはあまり向きません。溶接を必要としない刃物類や、ボルト・ナットなどの締結具といった部品に使われます。
用途に合わせたステンレス鋼の選び方
ステンレス鋼を選ぶときは、「何を最も重視するか」から系統を絞り込むと整理しやすくなります。
- 耐食性・清潔さを最優先したい:オーステナイト系(一般用途はSUS304、塩化物を含む環境ではSUS316)
- 溶接して構造物をつくりたい:溶接しやすいオーステナイト系
- コストを抑えつつ適度な耐食性がほしい、磁性が必要:フェライト系
- 硬さや鋭い刃が必要:焼入れで硬くなるマルテンサイト系
実際の選定では、使用環境(温度・塩分・薬品)、必要な強度、加工方法、コストを総合的に判断します。系統ごとの特性の違いを把握しておくことで、用途に合った材料を選びやすくなります。
ステンレス鋼を加工するときのポイント
ステンレス鋼、特にオーステナイト系は、切削加工では「難削材」(削りにくい材料)として扱われることが多い材料です。削った部分が硬くなる加工硬化が起こりやすく、熱伝導率が低いため切削熱が刃先にこもりやすいうえ、工具に材料がくっつく溶着も起こりやすいためです。
細く深い穴をあける深穴加工では、これらに加えて、切りくずを穴の外へ確実に排出することが重要になります。工具の材種や切削条件、クーラント(切削油剤)の供給方法を材料に合わせて選ぶことが、安定した加工につながります。
よくある質問
ステンレス鋼は磁石につきますか?
系統によって異なります。フェライト系とマルテンサイト系は磁性があり磁石につきますが、オーステナイト系は基本的に磁性がありません。ただし、オーステナイト系でも冷間加工を受けた部分は、わずかに磁性を帯びることがあります。
SUS304とSUS316はどう使い分ければよいですか?
一般的な用途では、最も広く使われているSUS304が基本になります。海水や塩化物を含む環境など、孔食が心配な場面では、モリブデンを加えて耐孔食性を高めたSUS316が選ばれます。
ステンレス鋼は本当に錆びないのですか?
錆びにくい材料ですが、まったく錆びないわけではありません。塩分や酸の多い環境や、表面に汚れが付いたままの状態では錆が発生することがあります。特にマルテンサイト系はほかの系統より耐食性が劣るため、使用環境に合わせた手入れが大切です。
まとめ
ステンレス鋼は、クロムがつくる不動態皮膜によって錆びにくくなった合金鋼です。耐食性と成形性に優れるオーステナイト系、比較的低コストで磁性をもつフェライト系、焼入れで高い強度と硬度が得られるマルテンサイト系と、系統ごとに特性と得意な用途が異なります。それぞれの違いを理解することで、用途に最適な鋼種を選びやすくなります。
ハイタックは、ガンドリルマシンの製造と深穴受託加工を行っています。φ0.5〜30mmの穴径に対応し、φ1.0mmで深さ400mm(L/D 400)の深孔加工を実現しているほか、試作1本から量産まで、外形加工・ホーニング加工を含めて内外径を一貫して対応しています。ステンレス部品の深穴加工についても、お問い合わせページからお気軽にご相談ください。
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